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育児
2019/09/26

【男性目線の育児#19】妊娠出産育児による収入と支出の変化をシミュレーションしてみた(①要因分析編)

長女が誕生し、6か月の育児休業を取得してから9か月が経ちました。家計の収支を振り返ってみるに、育児休業を取ると決めた時には見えていなかったものが見えてきましたので、初めての子供を迎えるにあたって妊娠出産育児を経験する家計シミュレーションとして、復職して最低限落ち着くまでの懐具合を計算するにはどういった要素があるのかを具体的に並べてみたいと思います。

・・・なんというか、色々と調べなおしていたら影響要因の多さに衝撃を受けまして、シミュレーションをする前に『どんな収支要素があって、それぞれどんな変動要因があるのか』を整理するだけで記事を1本書けてしまうことに気付いたので、今回は要因分析に特化した内容をお伝えしたいと思います。

 

背景は手作り甚平を着る娘の図。なお本編とは関係ない。

 

なお、これら制度は頻繁に変更されるものであり、記事を書いた2019年9月時点から時間が経てば経つほど違いは出てきます。また私自身も専門家ではなくただの一人の親であります。なるべく誠実に書いたつもりではありますが、記事の内容を読んで読者の方が取った行動による帰結に責任を持てるものではない点、ご留意くださいませ。

 

本記事で扱う領域

妊娠出産育児による収支の変化を見たいので、収入全般に加えて、変動しうる支出に関しても扱いたいと思います。もちろん収入は直接的な給与や賞与だけでなく、給付金や補助金も対象とします。

逆に言うと、一般的に妊娠出産育児によって変動しづらいか変動が予測できない支出は扱わないですし、家族の人数が増える(成長する)ことによる消費財の出費を検証することはほぼ不可能なので外すことにします。例えば家賃や光熱費、通信費、食費や日用品代、家具代、娯楽費などは対象から外しました。

それでは見てみます。

 

収入要素を挙げてみる

さっそく収入から考えてみます。

しれっと夫婦共に正社員という想定で考えておりますので、夫婦それぞれの『①給与』『②賞与』が挙げられます。

また、妊娠にあたって悪阻(つわり)がひどくて休職する場合、これはとりわけ妊娠初期の3ヶ月ほどに発生することが多いですが、この場合は加入している健康保険から『③傷病手当金』が支払われます。

さらに、出産にあたっての産前産後休業期間については、加入している健康保険から『④出産手当金』が支払われます。なお『出産育児一時金』については、産院を通じて申請することが主であり、実際に家庭へのキャッシュフローが発生することが少ないと思われるため、ここでは割愛します。

もちろん夫婦ともに育児休業を取得する想定で考えておりますので、加入している雇用保険から夫婦それぞれに『⑤育児休業給付金』が発生します。また、育児中には『⑥児童手当』が各家庭に支給されます。

 

支出要素を挙げてみる

続いて支出についても考えてみます。

妊娠出産育児を通じて最も大きく変動するのは所得です。そのため、所得に応じて変化する税金や社会保険料などの支出はこの期間を通じて大きく変動することになります。例として、『⑦所得税』,『⑧社会保険料』,『⑨住民税が挙げられます。

また、妊娠してから出産するまでは定期的に妊婦健康診査に通うため、『⑩妊婦健康診査費用』を払うことになります。妊婦健康診査受診票なる補助券を使ったとしても毎回数千円は飛びますし、出産が近づくにつれて診療頻度が高くなり、後半になればなるほど月ごとの支出がじわじわと増えていくため、覚悟していないと意外と驚く要因です。

さらに、意外と落とし穴なのが『⑪分娩予約金』(入院予約金とも言う)です。産院ごとに違うようですが、だいたい妊娠30週までに5万円~20万円を産院に前もって預ける仕組みです。金額は産院によって異なりますが、総じて額が大きいうえに現金で支払うので、キャッシュフロー的にはボディーブローのように効いてくる要因です。

最後に挙げたいのが、育児休業が終了して復職してからの『⑫保育料』です。認可保育園を前提としても、所得などの家庭状況に応じて大きく変動しますので、ぜひ押さえておきたいところです。

 

各収支の変動要因を並べてみる

さて、収支について、『①給与』,『②賞与』,『③傷病手当金』,『④出産手当金』,『⑤育児休業給付金』,『⑥児童手当』,『⑦所得税』,『⑧社会保険料』,『⑨住民税』,『⑩妊婦健康診査費用』,『⑪分娩予約金』,『⑫保育料』の12要素を挙げられましたので、それぞれについて何によって変動するかを考察してみたいと思います。

 

『①給与』

正社員の給与は基本的に、毎月、就労した場合のみ支払われます。例えば悪阻で休職したり、産前産後休業や育児休業を取得している間は発生しません。

金額の多寡としては、残業手当が支払われる雇用契約かどうかは重要です。というのも、もともと残業が多く、給与における残業手当の比率が大きい人の場合、妊娠や育児を通じて残業が激減ないしゼロになると、給与が激しく落ちる可能性があるからです。

また、妊娠中や育児休業からの復帰後に時短勤務に切り替える場合、もともとの給与体系にみなし残業が含まれているかどうかは非常に重要な論点です。というのも、時短勤務に切り替えると、無条件にみなし残業手当がなくなるからです。具体的には、例えば月給32万円、うちみなし残業手当が8万円の人が、時短勤務と言うことで8時間から7時間と短くした場合、給与は32万円×7/8 = 28万円ではなく、(32-8)×7/8 = 21万円になります。思った以上に落ちるので、雇用条件は細かく確認するべきだと感じます。

まとめると、給与の主な変動要因としては、給与、残業手当の比率、みなし残業手当の有無、時短勤務の有無、悪阻による休職期間、産前産後休業期間、育児休業期間、が挙げられます。

 

『②賞与』

正社員の賞与は、年に1回の場合、年に2回の場合、会社として制度が無い場合の3パターンが多勢を占めると思われ、稀に年に3回以上という会社がある印象です。

もちろん賞与の基準額は、会社の賞与原資をもとに、組織目標に対する評価、個人目標に対する評価をもとに設定されますが、本記事ではその評価は固定とみなすことにします。では主たる変動要因は何かというと、賞与を算定する期間における就労比率です。例えば半期(半年)ごとに賞与が発生する会社の場合、うち3か月間を育児休業で就労していなかった場合、実際の賞与額は基準額に対して3か月/6か月 = 50%となるような賞与計算をする会社がほとんどと思われます。

妊娠出産育児を通じて長期間休業する場合が多く、賞与はもらえるけれど額がいつもと比べて大きく落ちた、ということはよく起きていると思います。もともと、毎月の収支は赤字だけれどボーナス(賞与)でプラスになって家計を維持していた・・・といったご家庭の場合は、思わぬところで衝撃を受ける可能性が否めません。

まとめると、賞与の主たる変動要因としては、賞与の基準額、賞与対象期間の就労比率、が挙げられます。

 

『③傷病手当金』

傷病手当金は、妊娠した女性が悪阻等で就労できなかった場合に、加入している健康保険から支払われます。健康保険によって規則は微妙に異なりますが、ここでは全国の中小企業が加盟する全国健康保険協会(通称:協会けんぽ)の規則を参考にして考察してみます。支給条件としては、

業務外の事由による病気やケガの療養のため仕事を休んだ日から連続して3日間(待期)の後、4日目以降の仕事に就けなかった日に対して支給されます。

とのことなので、例えば90日(≒3か月)まるまる悪阻で就労できなかった場合、87日分の傷病手当金がもらえます。肝心の金額はと言うと、

一日あたりの金額は、『支給開始日以前の継続した12ヶ月間の各月の標準報酬月額を平均した額』を30日で割ったものを2/3倍した額。(※支給開始日とは、一番最初に給付が支給された日のことです)

とのことです。支給開始当月を含むため、月初からまるっと休み始めると標準報酬月額が減って基準額がやや下がりそうな罠が見え隠れしますし、月給の平均ではなく標準報酬月額にまるめたものの平均なので多少の誤差はありそうですが、ざっくり言うと給与の67%がもらえることに近しいため、それなりの額が見込めます。(なお休職して給与がないわけなので、それでも明確にマイナスです。)

 

なお、標準報酬月額の定義を協会けんぽのページで確認すると、

被保険者が事業主から受ける毎月の給料などの報酬の月額を区切りのよい幅で区分した標準報酬月額

とあり、なんと続いて、

健康保険制度の標準報酬月額は、健康保険は第1級の5万8千円から第50級の139万円までの全50等級に区分されています。(区分については、こちらの都道府県ごとの保険料額表をご確認ください

と書いてあり、細かい50等級に従って金額が丸められることが示されています。ここでの標準報酬月額は金額を丸める機能しかないため、月給を平均しても大勢には影響ないですが、正確さにこだわるには正しく標準報酬月額に換算することが望まれます。

 

また、収支シミュレーションでは肝心の金額だけでなく、『いつ支給されるのか』というキャッシュフローの観点も重要です。給与がないのでなるべく早く支給してもらいたいものの、短期間で何度も申請するのは正直しんどいです。悪阻は妊娠発覚直後から3ヶ月ほど続くことが多いうえ、体調が辛い中でもなんとか出勤しようとする結果、完全な休職というよりも不安定な勤務状況が続く可能性も高いことを考えると、悪阻が落ち着いてからの申請が現実的と思われます。申請してからは2週間前後で支給があるようなので、3か月間(12週間)の悪阻が落ち着き、復職できてから傷病手当金を一括申請すると考えると、妊娠20週あたりで傷病手当金が支給されるという想定で行きたいと思います。

 

長かったですが、まとめると、傷病手当金の主たる変動要因は、給与、悪阻による休職期間、健康保険有無、の3つが挙げられると思います。

 

『④出産手当金』

出産手当金は、産前産後休業期間に給与がもらえない代わりに、加入している健康保険から支給されます。基本的な考え方は先ほどの傷病手当金と同様です。同じく協会けんぽの規則を確認すると、

被保険者が出産のため会社を休み、その間に給与の支払いを受けなかった場合は、出産の日(実際の出産が予定日後のときは出産予定日)以前42日(多胎妊娠の場合98日)から出産の翌日以後56日目までの範囲内で、会社を休んだ期間を対象として出産手当金が支給されます。出産日は出産の日以前の期間に含まれます。

とあり、産前産後のおよそ3か月に支給されることがわかります。(なお、多胎妊娠の場合は期間が長くなります。)

額に関しても傷病手当金と同様で、支払い開始日以前の12か月の標準報酬月額の平均が基準です。ただし、注意すべきは、該当する12か月に悪阻による休業期間ががっつり含まれる場合、基準となる標準報酬月額が傷病手当金と比べて明確に落ちる可能性があることです。こればっかりはコントロールできないことですが、リスクとして認識しておきたいところです。キャッシュフロー的な観点も傷病手当金と同様で、産後休業が終了してから2週間前後で支給されるものと想定します。

なお、実は出産手当金をもらうには、勤務先の健康保険に加入している必要があります。そのため、諸事情により国民健康保険に加入している場合は出産手当金がもらえないという落とし穴がある点は、頭の中に入れておきつつ自分の状況を必ず確認しておくべきだと思います。

ということでまとめると、出産手当金の主たる変動要因は、給与、悪阻による休業期間、産前産後休業期間、出産予定日、出産日、健康保険有無、が挙げられると思います。

 

『⑤育児休業給付金』

育児休業給付金は、育児休業を取得している期間に対して雇用保険から給付される国の政策です。金額は傷病手当金や出産手当金と酷似する『だいたい給与の2/3倍』ではありますが、基準となる金額の算出方法やキャッシュフローによる違いがあるため、しっかりと把握しておきたいところです。公式情報として、厚生労働省のパンフレット置き場の『育児・介護休業法』欄にある『リーフレット「育児休業や介護休業をする方を経済的に支援します」 』を確認してみましょう。

まず、支給対象期間(支給日数)は育児休業を取得した日数全体です。例外はいくつかあるものの、育児休業を取得できるのは基本的には子供が1歳になるまでなので、最大1年間の給付がある、というのが育児休業給付金の基本となる考え方です。

1日あたりの金額は時期によって異なり、最初の180日間は『休業開始時賃金日額』×『支給日数』×67%と高いものの、残りはやや少なくなって『休業開始時賃金日額』×『支給日数』×50%という金額です。

さて、休業開始時賃金日額とは、傷病手当金や出産手当金の時に出てきた標準報酬月額とはまた違う概念です。上述のリーフレットにて、

休業開始時賃金日額とは原則として、育児休業開始前6か月間の賃金を180日で割った額です。

とあるように、育児休業が始まる前の、まるまる6か月間の額面給与が元になっています。(賞与は除く。)

また、傷病手当金や出産手当金が休職による給与減が基準額を直接下げてしまうリスクを持つのに対して、なんと育児休業給付金には救済策があります。該当期間で休職や休業などの事由により給与が下がる場合は、半年より長い期間(通常は1年程度)の給与を提示することにより、その中から特別事由のない通常時の給与である6か月分を選定して休業開始時賃金日額の元とするという救済策があるのです。(これは公式情報というよりは、役所のコンシェルジュに相談すると教えてくれることです。)

そのため、2/3とほぼ同等の67%という比率であっても、育児休業給付金の方が月あたりの支給額がやや多くなる、と言うことは往々にして起こると思われます。

ただし、肝心のキャッシュフローには問題が残ります。2か月ごとに支給になるのですが、最初の支給タイミングが育児休業に入って2か月間を過ぎてからようやく申請したのちに2週間前後経ったタイミングなのです。つまり、出産と同時に取得開始したとしたら、下手すると最初の3か月間は給与無し、育児休業給付金も無しと言う状態になりかねないのです。

貯金が心許ない場合は、最初の3か月間で貯金が尽きる・・・なんて笑えない展開もありえますので、気になる場合は貯金額とキャッシュフローを念入りに確認することが望まれます。

 

なお、ここまで話しておきながら、たとえ正社員でも育児休業が取得できない、ないし育児休業給付金が支給されないという驚愕のシナリオがありえます。ざっくり言うと、就業してから1年未満の場合は正社員でも個別の労使協定によっては育休取得を拒否されうる点、また過去2年間において11日以上出勤した月が12か月未満の場合は給付金がもらえない(前職も含めることは可能なものの、失業手当を利用していない場合に限る)点が挙げられます。制度の落とし穴であるため、早期の是正を期待したいところですが、当座の対策として転職と家族計画とを天秤にかける・・・というのも現実的ではないため、非常に悩ましい問題です。(この問題は、東洋経済の記事『「育休」働き方多様化時代に合わない問題点4選』に詳しいです。)

 

ということでまとめると、育児休業給付金の主たる変動要因はシンプルに、給与、育児休業期間、の2つになるかと思います。(賞与が関係ない点には注意。)

 

『⑥児童手当』

児童手当をざっくり説明すると、中学校修了まで(15歳の誕生日後の最初の3月31日まで)の児童に、一人あたり月額5000円~1万5000円が支給される国の政策です。

内閣府の公式ページにある『リーフレット「児童手当」(平成30年度版)』を確認すると、基本となる支給額は3歳未満が1万5000円、3歳以上が1万円とのことですが、第3子以降は小学校修了まで1万5000円に上がったり、養育者の個人所得が上限を超える場合は一律5000円に下がったり等の特例はあるので注意します。

ちなみに、一律5000円に下がる所得上限は『所得制限限度額』と呼ばれており、扶養親族等の数に応じて所得(※収入ではないので注意)が設定されています。初産で子供一人を扶養する場合は所得660万円(個人年収ベースではおよそ875万円)に設定されているため、夫婦のうち収入の多い方がこの額を超えている場合は児童手当が5000円に下がることを覚悟した方がよいでしょう。

また、キャッシュフローも要注意です。支給は年3回と決まっており、毎年2月、6月、10月に支給されます。支給月前の4か月分が支給される仕組みのため、最初の支給額は4か月分にならないことがある点、例えば4月生まれの子供で急ぎ申請して受理されたとして、6月初めて支給されるのは5月の1か月分となりうる点は留意します。

なので、まとめると、児童手当の主たる変動要因は、給与、出産月(出産日)、の2つです。(このシミュレーションは第1子の妊娠出産育児を念頭に置いているので、第3子以降特例は割愛します。)

 

『⑦所得税』

さて、ここからは支出です。所得税は、年収から数多の控除を引いた所得をもとに、累進課税の料率が課されて年額が決定される税金です。

一般的な正社員の場合は、給与や賞与から源泉所得税という形で1月から11月まで概算の金額を毎回天引きされ、12月の給与にて年末調整という形で然るべき年額との差異を調整するように還付もしくは追徴が行われます。細かい仕組みは国税庁による『所得税の仕組み』『賞与に対する源泉徴収』『源泉徴収税額表』などのページを参照しましょう。

妊娠出産育児に特化した話で言うと、産前産後休業や育児休業などで給与や賞与がなければ所得税が発生しない点や、休職や休業期間が長くて年収が103万円以下になった場合は年末調整の時点で源泉所得税が全額還付される点を、頭の片隅に入れておきたいところです。

つまり、細かい控除要素を除くと、所得税の主たる変動要因は、給与、賞与、の2つになります。

 

『⑧社会保険料』

社会保険料は、健康保険料と介護保険料(40歳以上のみ)、厚生年金保険料、雇用保険料の合算です。なお厳密には、社会保険料といえば労災保険料も含みますが、これは全額企業負担のため割愛します。

 

健康保険料と介護保険料、厚生年金保険料の3つは、4~6月の給与額の平均をもとに標準報酬月額を算出したうえで、その標準報酬月額に一定比率が掛け合わされて徴収金額が決定し、その額の半分が9月分から翌年8月分まで給与から徴収されます。キャッシュフロー的な観点で厳密に見ると、前月分の社会保険料が当月の給与から引かれるので、例えば支払い自体は10月から翌年9月の間に天引きされます。

肝心の比率ですが、厚生年金保険料は18.3%と一定である一方、健康保険料と介護保険料は加入する健康保険によって異なります。このたび参考にしている協会けんぽでは、健康保険料では勤務先の都道府県によってばらつきはあるものの概して10%前後、介護保険料では一律1.73%となっています。

また、給与だけでなく賞与からも徴収されるわけですが、賞与の場合は1000円未満を切り捨てた金額を標準賞与額として設定し、上述の比率を掛け合わせて徴収額を算出するとのことです。

 

一方の雇用保険料は、これらと比べると若干規則が異なり、当月の給与ないし賞与の金額に一定比率を直接かけ合わせることで算出します。厚生労働省の公式情報によると、被雇用者負担分の料率は0.3%とのことです。

 

さて、ここからが本番です。妊娠出産育児では休職や休業で給与や賞与が無くなる期間が多々発生しますが、こういった期間にどこまで優遇措置が用意されているのかを見ていきます。

健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料の3つは、ざっくり言うと、産前産後休業や育児休業の間は免除されます。厳密に言うと、取得開始月から免除される一方で、取得終了日が月中の場合は取得終了月の前月まで免除、取得終了日が月末の場合は取得終了月の当月までが免除される仕組みになっています。

他方の雇用保険料は当月の給与ないし賞与に直接かかってくる仕組みのため、休業中かどうかではなく、給与ないし賞与が支払われたかどうかで徴収の有無が決まってきます。そのため、月中の休職開始の場合は健康保険料や厚生年金保険料は免除されているのに雇用保険料だけ徴収されるというある意味不思議なズレも起きますが、仕組みを理解していれば納得です。

 

健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料の3つについてもう1つ考慮したいのが、復職後に働き方を変えるなどして収入が落ちた場合でも休職前の高い収入をもとに社会保険料が決まりかねないリスクです。一度算出された標準報酬月額が1年続く健康保険料と厚生年金保険料がこれに該当します。このリスクを解消するには、『育児休業等終了時報酬月額変更届』を提出することで復職後3か月間の給与をもとに標準報酬月額を見直してもらい、4か月目からの徴収額を変更してもらうことが可能です。

 

まとめると、社会保険料の主たる変動要因は、給与(直近4~6月)、産前産後休業期間、育児休業期間、必要に応じて育児休業等から復職後3か月間の給与、勤務先の都道府県、の5つになると思われます。

 

『⑨住民税

住民税の内訳は、厳密には居住地によって異なります。東京23区在住の場合は都民税+特別区民税、23区外の東京都在住の場合は都民税+市町村民税、東京都以外に在住の場合は道府県民税+市町村民税が含まれます。

ややこしいのが住民税発生のきっかけです。今までの支出を振り返ってみると、

  • 所得税と雇用保険の2つは、給与ならびに賞与の発生時
  • 健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料の3つは、給与発生による翌月給与発生時、ならびに賞与の発生時

ということで即時性が強かったですが、住民税発生のきっかけは『前年に一定以上の所得があること』であり、過去の所得をきっかけにしているため、なんと休業中の免除がありません。具体的に説明するために、住民税の徴収方法、つまり特別徴収と普通徴収の区別を確認したいと思います。

特別徴収は、『特別』と銘打ってありますが、正社員を含めた被雇用者にとって実は最も馴染みの深いものです。これは、前年の所得に応じて決定された住民税を12分割した金額を、雇用主である企業が6月から翌年5月にかけて給与から天引きするという徴収方法です。一般的に、ほとんどの正社員は意識せずともこの特別徴収によって住民税を納付していると思います。

一方で、産前産後休業や育児休業のように休業する場合は給与が発生しないため、雇用主である企業が給与から天引きすることができず、むしろ被雇用者に請求するという手間が発生しかねません。そのため、こういった休業を取得している間は、雇用主による特別徴収を停止し、普通徴収に切り替えることが多いです。

普通徴収とは、支払うべき住民税を4分割して、6月、8月、10月、翌年1月の年4回にて被雇用者が自ら納付する徴収方式です。ただし、年の途中で普通徴収に切り替える場合は、6月から12月の間のみ申請が可能であるため、出産時期によっては特別徴収のまま雇用主である企業に支払う場合も出てくるので、注意が必要です。

(なお、休業前の最後の給与時に住民税の未払い残高を一括で特別徴収してもらうこともできますが、キャッシュフロー的に一番負担が大きいので、このシミュレーションでは割愛します。)

 

ちなみに、実際に支払う金額は自治体によって多少の違いはあれど、基本的な考え方としては、万人固定の均等割額がベースとなり、所得が増えれば増えるほど多くなる所得割額が積み重なって算出される形式です。細かい計算方法は、1月1日時点で居住していた自治体の公式情報を参照しましょう。

 

つまりまとめると、細かい控除要素を除けば、住民税の主たる変動要素は、前年の年収、1月1日時点での居住地、産前産後休業期間、育児休業期間、の4つと思われます。

 

『⑩妊婦健康診査費用』

妊娠が発覚してからは、定期的に妊婦健康診査に通うわけですが、それにもそれなりの費用が発生します。居住地の市区町村に妊娠したことを届け出することで『妊婦健康診査受診票』を補助券をもらえますが、補助券なしだと何万円もする診査も散見されるため、蓋を開けてみると実は毎回数千円が飛んでいく・・・というのが一般的なようです。

厳密に何回目でいくらかかるかをシミュレーションすることはほぼ不可能なので、ここでは毎回5000円と決め打ちして算出することにしたいです。

肝心の頻度ですが、東京都福祉保健局によれば、

(1)妊娠満23週までは、4週間に1回
(2)妊娠満24週から35週までは、2週間に1回
(3)妊娠満36週から分娩までは、1週間に1回

という頻度が理想とされており、後半になればなるほど月ごとの支出がじわじわと増えていく仕様であるため、なおさら注意が必要と言えるでしょう。

まとめると、妊婦健康診査費用の主たる変動要因は、妊娠期間、の1つに集約できるかと思います。(でもこの費用は厳密な推定はほぼ不可能で、実際の妊婦の状況に応じて大きくブレる点はご留意ください。)

 

『⑪分娩予約金』

分娩予約金は、入院予約金とも呼ばれ、出産を行う産院に前もって費用の一部を預けておく産院の仕組みです。産院ごとに預ける期限や金額を設定しているのでブレは大きいですが、だいたい妊娠30週までに、5万円~20万円を預けることが一般的なようです。

「出産育児一時金があるから出産自体にお金は大してかからないだろう」などと安心していると、収入が不安定な妊娠中期にまとまったお金を現金で要求されて驚くなんてことも起こりえるので、注意します。

すぐに払ってもよいですが、妊娠発覚初期は悪阻が起こりえることを考えると、悪阻があっても多くの場合に落ち着いている期限ぎりぎりに支払う方向で考えたいと思います。金額も実際はピンキリですが、15万円固定にてシミュレーションしたいと思います。

ということでまとめると、分娩予約金の主たる変動要因は、出産予定日、の1つに絞れると思われます。

 

『⑫保育料』

育児休業から無事復職すれば、ほとんどの人が子供をいわゆる保育園に預けると思います。その保育園の利用料金が『保育料』です。保育の形態によって違いがあるため、ここでは認可保育園に絞って考えたいと思います。認可保育園の場合は、該当期間における世帯の住民税(市区町村民税的な方)の所得割課税額によって階層分けされて、保育料が決定します。(ただし注意点として、政令指定都市は所得割の料率が30年度に8%へ上がったものの、保育料計算時は従来の6%で計算するらしく、食い違いには留意します。)

厳密には、ランクの中で子供の年齢や教育要素の有無によって1号から3号に分かれて金額が変わったり、生活保護世帯や一人親世帯は負担を大きく抑えてもらえたり等ありますが、今回のシミュレーションでは住民税を納めている二人親世帯に特化して考えたいと思います。子供の条件に関しても、初めての子供であり、3歳未満であるので、多子軽減なしの3号認定を前提として話を進めたいと思います。

 

ただし、ここにも落とし穴があります。『基準する所得割課税額はいつのものを使うのか』が変則的なのです。具体的に言うと、4月~8月の保育料は一昨年の所得割課税額を用い、9月から翌年の3月までの保育料は昨年の所得割課税額を用いるので、なんと年の真ん中で保育料が変動するリスクや、復職直後で収入が少ないけど休業前の収入が多かったころを基準にされて保育料が高額になるリスクが存在します。是非とも覚えておきたいところです。

 

そのため、このシミュレーションにおける保育料の主たる変動要因は、該当期間の住民税の所得割課税額、復職日、という2つの要素に絞れると思います。

 

収支の変動要因まとめ

特別なパターンを片っ端から割愛しながらの分析ではあったものの、シミュレーションするには最低限のポイントは押さえねばと書き始めたら1万文字を超えてしまいました。でも、これでも本当に最低限だと思います。

改めておさらいです。ここで主な収支要素として掲げたのは収支12要素、『①給与』,『②賞与』,『③傷病手当金』,『④出産手当金』,『⑤育児休業給付金』,『⑥児童手当』,『⑦所得税』,『⑧社会保険料』,『⑨住民税』,『⑩妊婦健康診査費用』,『⑪分娩予約金』,『⑫保育料』です。

それらの主たる変動要因として挙がったものを列挙すると、給与、残業手当の比率、みなし残業手当の有無、給与(直近4~6月)、育児休業等から復職後3か月間の給与、賞与、賞与の基準額、賞与対象期間の就労比率、前年の年収、該当期間の住民税の所得割課税額、悪阻による休職期間、産前産後休業期間、育児休業期間、妊娠期間、出産予定日、出産日、復職日、時短勤務の有無、健康保険有無、勤務先の都道府県、1月1日時点での居住地、といった面々が並ぶことになります。総勢21変動要因です。

つまり、初めての子供を迎えるにあたって妊娠出産育児を経験する家計シミュレーションとして、復職して最低限落ち着くまでの懐具合を計算するには、だいたい21の変動要因を計算して収支12要素の変化を可視化する必要がある、ということが分かりました。(ものによっては夫婦それぞれ必要なので実数的にはもっと多いです。)

次回はこの収支12要素×21変動要因をもとに、実際に時系列の家計シミュレーションを行ってみたいと思います。

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ブログ著者について
那須野 拓実(なすの たくみ)。たなぐら応援大使(福島県棚倉町)。トリプレッソを勝手に応援する人。ネイチャーフォト中心の多言語ブログを書いてます。本業はIT&マーケティング界隈でナレッジマネジメントとかデータ分析とかの何でも屋。半年間の育休明けで、家事育児と外働きのバランスを模索中。