長女の誕生にあたって父親として半年間の育児休業をとることにしたので、育児課題について改めて考えてみました。
ひと昔前であれば、おじいちゃん、おばあちゃんらが同居する大家族で、近所付き合いや親族付き合いが活発で、夫が会社員として外で働き、妻が専業主婦として内で育児をする・・・みたいな子育て環境が主だったようで、賛否両論はあるものの、一つの安定した形だったように思います。
今は核家族が多数派になり、近所付き合いが希薄になり、夫婦共働きが当たり前となって一人当たりの収入が落ちたわけです。そうすると、意識的に対策をしなければ、昔は顕在化しなかった諸問題が妊娠、出産、育児の中で次々と爆発してしまうんだな・・・というのが素直な実感です。
そんな育児は、毎日の生活を営みながら、次々と勃発する諸問題をどう優先順位付けして解決していくかが試されるような立ち上げ初期のベンチャー企業のようなもので、プロジェクトマネジメントや組織論あたりの手法がもっと転用されるべき場だと感じたので、ここにつらつらと書いていきたいと思います。
★注意★
育児は人それぞれです。100の家庭があれば100の事情があり、100の育児があって然るべきものです。たった1つのあるべき姿なんて存在しません。人の意見を鵜呑みにするのは危険ですし、逆に安易に強要してよいものでもありません。自らが、家庭環境と子供の状況を見定めたうえで、子供とどう成長していきたいかを考え、これだと思う方法に思い切ってチャレンジしつつもダメそうなら変えていくトライアンドエラーの姿勢が大切だと思います。なのでこの投稿も、鵜呑みにしないでください。
遡ること1年弱、2017年の秋。待望の妊娠に2人で喜んだのも束の間に、突如訪れた強烈なつわりで身動きがとれなくなった妻を見たところから、近い将来に始まるであろう育児にどう向かい合うかを考え始めることになりました。
育児といえば、2010年に厚生労働省のもとで「イクメン」という言葉を使われ始め、男性の子育て参加や育児休業の取得が推進されたわけで、最近では感情論がSNSで民意を揺さぶらんとするかのようにシェアされるようになりました。ちなみに私は「イクメン」という言葉は嫌いです。
冒頭から何言ってんだって感じですが、問題解決の手法を一つに限定するなんてビジネスでは高確率で失敗するのが自明なわけで、育児においても個々の家庭で状況が違うのに「男性も”いわゆる”育児をすべし」,「男性も育児休業をとるべし」という通り一辺倒な対応が推奨されては、救われない人たちが大量に出てくると思っているからです。
だからといって、「男性は外で仕事だけをしていればよい」という免罪符があるわけではないので、せっかくなのでビジネス的な視点で、冷静に、育児の現場を見つめてみることにしました。
ビジネスでは新しい仕事を行う際、プロジェクトというものを立ち上げて、招集された複数のメンバーたちで目標達成を目指すことになります。各々がただ漫然と勝手に動いていては、いつまでたっても目標達成ができないので、プロジェクトマネージャーなる人が全体を指揮・調整しながら進めることが一般的です。
プロジェクトの大きさは、数十人、数百人の規模の場合もありますが、十人前後だったり、数人だったりすることもあります。核家族の育児をプロジェクトと見立てると、なんと2人のプロジェクトになります。プロジェクトの人員としては、きっと最少人数です。苦笑
では、たった2人のプロジェクトで、何をマネジメントするのか?
私がプロジェクトマネジメントで力を入れるべきと思うところは、①目的×目標設計、②業務フロー設計、③インセンティブ設計、④進捗管理、⑤リソース管理、⑥スケジュール管理、⑦問題×課題管理、あたりです。育児に当てはめて気になる点を洗い出してみると、
家事・育児はやれることが多すぎるので、目の前に見えるやるべきそうなことを全てやろうとすると過労で倒れます。産んでから始まるお祝い事のオンパレード、親戚の訪問対応、子供との思い出作り・・・他の家族がやっていることを検索しようものなら、「隣の芝生は青く見える」現象が襲い掛かってきます。
なので、そもそも私たちの育児って何を目指してやるんだっけ?という目的を考えた上で、何をどこまでやれば及第点なのか、という目標を決めて、逆にやらなくてよいことを決めておきます。後述するリソースを見つめながら、長期的なリスクを鑑みて決めておくとよいです。
注意点として、独りでこれに取り組むと「勝手に手抜き育児をしているんじゃないか・・・」と自己嫌悪に陥りかねないので、二人で考えて決めることが大切だと思います。このあたりは、ワンオペ育児の落とし穴があるのかな、と思っています。
初めての育児であれば、今まで経験のない作業が一気に生活の中に入ってきます。どんな作業があって、どういう流れで、どれくらいの頻度でやるのか、よくあるミスやトラブルは何なのか、それを避けるには何を注意したらよいか等をしっかりと認識しておく必要があります。
育児書を読み漁れば基本的なことは書いてありますが、家の間取りや家具の配置、子供の状況、夫婦の各種スキル等によって具体的なフローは変わってくるので、家庭環境に合わせて設計しなおすことが大切だと思います。
注意点として、初めての子供の場合は二人の生活に特化した家になっている可能性が高いので、育児優先で家の生活導線を大胆に再設計し、改善を試みるのもアリです。育児しにくい家で育児をしていると体力と気力がじわじわと奪われていくので、最初期に力を入れて取り組むべきかと思います。家財の移動や買い物など、物理的に結構なパワーがかかるので、夫が率先したいところです。
人は褒めてもらわないと頑張れません。内省だけでずっと努力し続けられる人はあまりいません。なので良い努力をする人が良く評価される仕組みが必要である・・・というのが一般的な組織論だと思います。夫ないし妻は、育児をすることで評価され、承認欲求を満たす必要があります。
昔であれば同居する両親や近所の人達のコミュニケーションによって妻の承認欲求が満たされていたのかもしれませんが、このご時世、核家族で近所付き合いが希薄だと、全てはパートナー次第となります。忙しい中、親族や友人との数少ないLINEのやり取りだけで満たされる承認欲求はたかが知れていると思います。ちなみにモノ言わぬ赤ちゃんからも承認欲求を得ることもなかなか難易度が高いです。
共働きの夫婦であれば、お互いがお互いの職場でしかるべき評価の仕組みのもとで働いていたでしょうから、職場を離れて育児に飛び込んだ瞬間に評価の仕組みがザルとなってしまっては、モチベーションが一気に低下しかねません。育児ないし家事という業務に対して、家庭という職場はどういうインセンティブ設計を行い、モチベーションを高く維持していくのか・・・ここは夫婦の組織運営力が試されます。
目標に対して及第点の育児ができているかどうか、子供は健やかに育っているかは定期的にチェックする必要がありますが、二人で子育てをする場合は、二人が同様に正しく状況を把握しておく必要があります。
昔、ずっと家にいるであろう妻とおばあちゃんが育児をしていたのであれば、常に家にいるからこそ自然と密なコミュニケーションが発生し、適切な情報共有と進捗管理をなしていたのだろうとみています。一方、核家族で夫婦のどちらかないし両方が外で仕事をする場合は、不在時の状況が分からずに認識の齟齬が出がちなので、どうやって進捗管理するかを意識的に設計する必要があります。
今時のスマホアプリであれば、夫婦でそれぞれのスマホからリアルタイムに子供の状況を記録・閲覧できるクラウド型の育児日記アプリが色々あると思います。育児中に片手で操作できるのが圧倒的に便利なので、探してよさげなものを採用するとよいと思います。
プロジェクトが突如として破綻するリスクを防ぐリソース管理は、ヒト・モノ・カネの3つを管理することです。育児に当てはめて言えば、育児従事者、育児用品、育児予算、といったところです。
育児従事者は核家族であれば夫婦二人というのが基本でして、人員交代や追加人員なしという点が非常にブラック感を漂わせています。ビジネスであればプロジェクトのスピード感や難易度に合わせて適切な人数、スキルセットの人員を招集し、必要に応じて途中変更も行いますが、育児はそれがない時点で容易にデスマーチに陥りかねないです。人員が限られているので、夫婦それぞれの体力、家事スキル、育児スキルの見定めと、早期のレベルアップは最優先課題です。また、あくまで臨時と考えたいところですが、何かあったときに両親や親族、親しい友人にサポートしてもらえる関係性を作っておくことも大切だと思います。
次の育児用品はベビーベッドやベビーカーなどの耐久消費財、靴や子供服などの半耐久消費財、オムツや粉ミルクのような非耐久消費財に分かれます。耐久消費財は然るべき時期に買うだけのものが多いですが、どちらかというと高額な負荷軽減グッズをどうするかがポイントです。例えばバウンサーや自動搾乳機、おむつ専用ごみ箱など、無くてもよいけどあると助かりそうで結構お高いものをどこまで買うか・・・後で買い足せばよいと考えて最初期に必要最低限しか買わなかった場合、困ったとき/疲れたときに買うという意思決定が実は相当疲れるものとなります。また一人だけで決めてやや高額な商品を買うことに「なんとも言えない後味の悪さ」を感じる人もいるので、夫婦で速やかに意思決定して追加購入できる体制を作っておくことがよいと思っています。
なお耐久消費財以外では、半耐久消費財は定期的な買い替えが必要で、非耐久消費財は在庫が尽きないよう買い足しが必要です。「困ってから買う」を繰り返すと心がすり減っていくのはこれも変わらないので、計画を立てて先手先手を打って買うサイクルを作りたいところです。
最後の育児予算は・・・予実管理は必要だと思いますが、ヒトのリソース調整が効きづらい以上、多少は犠牲になってもらう必要があるように思えてならないのが悲しいところですね。
うつや過労死を出さないという点において、スケジュール管理はリソース管理と同様にとても重要です。「スケジュール(=期限)は守るものではなくずらすものである」という信条のもとで仕事をしていますので、やれることが山のようにある家事・育児において、リソース状況が危ういときは優先順位の低いものから期限をずらしまくります。やらなくても死なないタスクは無かったことにします。ヒトのリソース調整が効きづらいプロジェクトなのでしょうがないです。夫婦間でしっかりと宣言をして堂々と手抜きをします。
もちろん対赤ちゃんのものは軒並み優先順位が高いのですが、掃除や食器洗い、家庭料理、親族・友人の面会などは優先順位が低くなっています。ただ、掃除はせずとも生活導線の確保はスムーズな育児のために必須なので、通り道に落ちている物をどけたり、物を定位置に戻したり等はけっこう気を使っていたりします。
初めての育児であれば、最初期にどれだけ脳内シミュレーションをしながら目的・目標設計や業務フロー設計、インセンティブ設計をしていたとしても、足りないところが出てきます。重要なのは、出てきた問題を速やかに吟味することです。
まず、問題と感じていること、困っていることは夫婦間で速やかに共有します。最初はたぶん山のように出てきますし、高望みなものも出てきたりするので、夫婦間で吟味し、対策をとるべきか、どういう状態にできたら望ましいか、どれくらい優先すべきかを考えます。対策をしたほうがよいということであれば速やかに課題として設定し、優先順位に従って解決策を考えて実行に移します。
留意したいのは、(1)致命的でなければ暫く放置してよい問題が少なくないこと、(2)ほとんどの場合に問題解決のための課題設定と解決策が複数ありえること、(3)「ただちに影響はないがじわじわくる」タイプのリスクは早急に対処した方がよいこと、(4)疲れすぎると吟味ができなくなって泥沼にはまるので最低限の体力は維持すべきこと、の4点です。
さて、プロジェクトマネジメント的な視点で①~⑦に沿って育児について気になる点をまとめてみました。それでは次に、今の夫婦が意識して対処すべき問題についてまとめてみます。
育児をプロジェクトマネジメントとして見た時に気になる点を眺めながら、二人暮らしだった夫婦が初めての子供を授かったときに意識的に対処すべきだと感じた育児課題を7つ挙げてみます。
ひと昔前であれば、おじいちゃん、おばあちゃんらが同居する大家族で、近所付き合いや親族付き合いが活発で、夫が会社員として外で働き、妻が専業主婦として内で育児をする・・・みたいな子育て環境が主だったように思います。
これは社会からの暗黙の要請であり、賛否両論はあるものの一つの安定した形だったように思いまして、なんとなく・・・当時は上に挙げた7つの課題を気にしなくても問題が起きにくかったのではないかと思います。
今は核家族が多数派になり、近所付き合いが希薄になり、夫婦共働きが当たり前となって一人当たりの収入が落ちたわけで、ステレオタイプのような大家族を営む社会的要請が無くなった代わりに、核家族それぞれが意識的に問題に直面せざるを得なくなった、というのが実情のように思います。
冒頭でも書きましたが、私は「イクメン」という言葉は嫌いです。それは、「イクメン」という言葉が男性の育児休業取得を盲目的に正義とみなし、逆に育児休業を取らない男性を盲目的に批判する根拠になりがちだと感じているからです。
結局のところ、たとえ夫が長期で育児休業を取ったとしても、上の7点のような課題が放置されれば互いに育児負担の痛み分けをするに留まり、幸せな育児にはならないんじゃないかと思っています。
逆に夫が妻としっかり話をし、上記のような課題について議論したうえで、夫がプロジェクトマネージャーとしてリードできるのであれば、夫は必ずしも育児休業を取る必要はないのだと思います。もちろん夫婦逆でもアリだと思います。
一つの問題に対して解決策は複数あるのが当然なので、たった一つの解決策を押し付けようとする育児の現状は、どうにかならないものかと悩ましく感じている今日この頃です。大家族に戻ってもよいし、間に合わない家事・育児タスクはフル外注してもよいし、子育て塾でレベルアップを図ってもよいし、自宅勤務を始めてもよいし、多様性が本質でしょうよ、と思います。
と・・・ここまで書いてみた私が言うのもなんですが、私自身は長女の誕生にあたって半年間の育児休業をとることにしました。
なぜ??
簡単に言うと、ありとあらゆる観点で育児休業をとらない理由がないと思える状況だったからなわけですが、あえて具体的に3点挙げるとすると、
育児休業をとる理由なんて、これくらいがちょうどよいと思います。