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ビジネス
2017/06/24

マーケティングリサーチの文脈で、9個のバズワードの行く末を解釈してみた

 

SNSやニュース、エキスポを賑わせているIT系のバズワード。最近はテクノロジーの進歩が早くなる以上に、バズワード化が早くなっていることの方が恐ろしいと感じます。

バズワード化は、今まで日の当たってこなかった技術や事象がクローズアップされて、世間の注目が集まってくるので、その領域で頑張ってきた業者にとっては大きなチャンスでもあります。

でもバズワード化が急激に進行すると、「なんだかよく分からないけど良さそうだな?」とか「それ最近流行ってるよね。うちもやろうかな?」みたいに雰囲気で話が進んでしまって、プロダクトアウトの市場拡大が進みがちです。当然、ユーザー視点の欠けた展開になり、テクノロジーが本来持つべき大きな可能性をつぶしてしまいます。これは、もったいない。

ついでに厄介なのは、テクノロジーの本質を理解せずにバズワードに乗っかってお金儲けをしようとする業者たちによって、そのテクノロジーが貶められてしまう点です。個人的に、こういう業者は嫌いです。でも意外と多いような気がするのは残念です。

 

とはいえマーケティング領域で仕事をする者として、バズワードの行く末に可能性を感じ、うまく活用してビジネスを成功に導きたい。そう思ったときには、活用したい業界特有の文脈におけるバズワードの意義を解釈する必要があると思います。こういう議論は経験的に、時期尚早なものが出てくることが多く、「まだできないじゃん」という結論に至りがちですが、明るく困難な将来像に共感してくれたり、建設的に批判してくれる業界関係者が出てくるなら、それは私的にとても嬉しいことです。

ということで、それなりにお世話になっているマーケティングリサーチ(市場調査)業界という文脈において、9個のバズワードの行く末を勝手に予想して書いてみます。

※本投稿は個人の主張であり、特定の団体は関係ありません。

 

9個のバズワードの行く末

 

1.ビッグデータ

マーケティングリサーチの文脈におけるビッグデータの意義は、『意思決定のためのデータソース』市場の激化である。具体的には、パッシブデータの市民権獲得と、相対的なアクティブデータ(アスキングデータ)の弱体化がある。

  • 意思決定のためにリサーチを実施していたクライアント企業は、リサーチ以外でも意思決定に活用できるデータを安価かつ大量に取得できるようになった。また、精度や特性の観点からパッシブデータを優位に考える企業も出現し、結果としてリサーチを意図的に放棄する企業、もしくはリサーチのウェイトを下げる企業が現れた。
  • マーケティングリサーチ企業は、『意思決定のためのデータソース』市場において、ビッグデータとの競合を余儀なくされ、いわゆるマーケティングリサーチの優位性を議論するために様々なビッグデータにも精通する必要が生じている。ビッグデータとの比較優位論の中で、近年軽視されがちだったデータの質の議論が再燃する可能性は高く、その場合、サンプリング、アスキング、プロセシング、アナリシスの各ステップにおけるバイアスの見直しが進むだろう。
  • また、この市場で勝ち抜くために、クライアント企業の保有するパッシブデータの分析代行業務を始めるマーケティングリサーチ企業も増えていくと思われる。(だがこれは、スキルセットの違いから非常に難しい課題である。)
  • なお、ビッグデータの普及はデータ活用コストを押し下げ、データドリブンな意思決定の普及を急激に進める可能性が高い。その中で、パッシブデータでは分析できない消費者の意識を把握するマーケティングリサーチが新たな価値を見出だされる可能性も十分にある。

 

2.IoT

マーケティングリサーチの文脈におけるIoTの意義は、PCの前でネットサーフィン中の人以外(つまり移動中の人)のパッシブデータが取得できるようになったことである。

  • マーケティングリサーチは、大きく分けてアンケート、インタビュー、観察という実査手法をとるが、対象者負荷の問題から継続的な情報取得が困難だった。
  • 一方、IoTの活用、とくにウェアラブルを中心としたスマートデバイスを活用することにより、継続的かつリアルタイムに対象者の情報取得が可能になった。取得可能な情報は、地図上のマクロ的な位置情報、体の挙動のようなミクロ的な位置情報、体温や心拍のような生体情報だけでなく、見えているものや聞こえているものを記録することも可能になった。
  • また、センサーによるデータ収集は、従来のマーケティングリサーチでは人起点でのデータ収集になりがちだったところを、場所起点でのデータ収集を可能にした。マーケティングリサーチ企業自身がセンサーの適切な設計を行えるようになれば、実店舗などの場所を持った企業に対してトータルデータマネジメントを提案できるようになるだろう。
  • ただし、従来のマーケティングリサーチ企業にとって依然としての大きな問題は、サーベイ内の短期活用を前提に考えてしまいがちで、コスト高とみられて導入が進まない点である。IoT活用の鍵は、すでにデータ収集をしているプラットフォーマーと連携できるか、もしくは長期的な活用のためにデータ収集プラットフォームに先行投資するビジネスモデルを自ら採用できるかである。

 

3.VR

マーケティングリサーチの文脈におけるVRの意義は、短中期的に起こるであろう仮想空間運用による既存サービスの代替と、長期的に起こるであろうデータソース独占による市場破壊である。

  • 短期で注目すべきは仮想空間運用である。マーケティングリサーチにおいて実店舗や商品棚における行動観察は定石であるが、店舗使用許諾の取得や仮設会場での棚再現には苦労がつきものである。その点、仮想空間では手配が容易になる点が素晴らしい。ただ、仮想空間の初期設営には膨大なコストがかかるため、しかるべき初期投資によって汎用的なプラットフォームを実装し、運用によってコスト回収を目指していく必要がある。嗅覚、触覚、味覚が重要なテーマには使えない点、解像度に難がある点は注意したいが、アイトラッキングが容易な点は留意しておきたい。
  • 中期で注目すべき点は、VRデバイスが普及した暁には、上述の仮想空間運用がオンラインで実施可能になる点である。現在はそこまでVRデバイスが普及していないため、仮想空間運用を行うとしたらCLTによる実施が適当である。一方でVRデバイスが普及すると、ネットリサーチを実施するかのようにVRリサーチを実施することができるようになるはずである。VR保有者のパネル構築が必要な話ではあるが、さらなるコスト削減とスピードアップが実現できる。
  • 長期で実現されるであろう破壊的イノベーションとして言及したいのは、VRプラットフォーマーがデータソース独占を実現してしまう点である。技術革新によって仮想現実世界が拡大し、その中で自然に消費者行動が行えるようになり、生活者がVR内で多くの時間を過ごすようになると、VRプラットフォーマーのみがその空間上の全てのパッシブデータを取得できるようになる。しかもリサーチもVR内で、ほぼ無料で、自動的に、排他的に行うことができてしまう。これは、商店街が量販店に敗れ、量販店がECサイトに敗れたのと同じように、ECサイトがVRに敗れる将来を意味している。
  • VR内の消費者行動がリアルを超えるのはずっと先の話と思われるが、何かの技術革新があれば爆発的に普及しかねない。今後、普及とともに法整備が進んでいく展開が予想され、そのときマーケティングリサーチ企業は大々的な変革を求められるだろう。

 

4.AR

マーケティングリサーチの文脈におけるARの意義は、アスキングのノンデバイス化による回答体験の最適化である。

  • マーケティングリサーチ業界ではデバイスアグノスティックなアスキング手法が叫ばれて久しいが、ARはリアル空間に直接的にオブジェクトを描画し、デバイスなしのアスキングを実現する。これは対象者の通常の生活の中で最も自然な回答体験と考えられ、ARの普及はPCやスマートフォンなどのデバイススクリーンを通じたアスキングを時代遅れにさせる可能性がある。
  • アスキングのノンデバイス化は、音声入力や、人工知能による対話とも相性がよい。また、今後の新たな技術革新次第で、実現されるであろうコミュニケーションシーンは如何様にも変わると思われる。ただし、VRと同じく普及には技術革新が必須であり、まだ先の話と思われる。

 

5.ニューロマーケティング

マーケティングリサーチの文脈におけるニューロマーケティングの意義は、VR連携による行動データと意識データ(生理データ)の日常的な継続取得である。

  • ニューロマーケティングの特長は、従来だとアスキングによってのみ取得可能だった意識データを、継続的かつリアルタイムに取得できることである。ただし現在は、技術的、費用的な障壁により、実験的な環境で活用するに留まっており、本来の特長である長期の継続性が損なわれている。
  • 秒単位で変化する意識データを解釈するには、同じく秒単位で変化する行動データが必須であり、かつ両方のデータをリアルタイムで解析し、アクションにつなげる仕組みが必要だが、技術的な障壁により実現されていない。ただし、VRがハード、ソフトの両面で飛躍的な進化を遂げ、生理データを継続的に取得できるようになれば、ニューロマーケティングが持っているポテンシャルが開花し、上述のVRの排他性の価値を激的に高めるだろう。

 

6.AI

マーケティングリサーチの文脈におけるAIの意義は、圧倒的なスピードの実現であり、もとより非常に労働集約的なマーケティングリサーチ業務において市場破壊を起こすだろう。

  • AIは従来から語られるArtificial Intelligence(人工知能)という側面だけでなく、Augmented Intelligence(拡張知能)という側面も非常に重要である。
  • 前者、Artificial Intelligenceの側面で言えば、まずオンラインサーベイのパターン化およびシナリオ化によるプランニングからアナリシスまでの全自動化が挙げられる。この開発プロセスは、人力によるシナリオ化がいまだ有望な領域であるが、過去実績の構造化ができればディープラーニングによる飛躍的進化の可能性も高い。
  • また、昨今の課題である大量テキストや画像、音声データなどの自動解析も、ディープラーニングによって近い将来に実用レベルに達すると思われる。これは労働集約的なビジネスモデルを一変させるだろう。
  • 次に後者、Augmented Intelligenceの側面で言えば、長年属人的だったリサーチャーの知識が体系化されて対話システムとして実現する可能性はある。そうなれば、そもそもクライアント自身が機械と対話しながらリサーチを進められる世界が来るかもしれない。このような世界では、Ray Poynter氏の言葉を借りれば、Client Success Managers, Bespoke Researchers, Entrepreneurs/Intrapreneurs, People creating or driving AI systems, Performersのような人材が活躍できると予想される。
  • 加えて、踏み込んだ将来の展開としては、ディープラーニングによって様々なリサーチクエッションに対する人間の反応パターンの特徴量を計算することで、あえて人に聞かずともAIがリサーチ結果をはじき出すようになり、リサーチが自販機で飲み物を買うように簡単なものになるかもしれない。従来のリサーチは百発百中の成功を保証するものではないので、このリサーチ自販機なるものが概ね当たるぐらいの精度があれば、十分に代替候補になってしまうだろう。

 

7.MA

マーケティングリサーチの文脈におけるMAの意義は、MAがリサーチ機能を内包することで、リサーチプラットフォームの上位互換として競合することである。

  • 従来のマーケティグリサーチは、アンケート実施に専門の仕組み・スキル・経験が必要だったことに加え、対象者を調達する必要があったことから、マーケティングリサーチ企業に発注するのが一般的であった。しかしMAの進展で、自社保有の顧客とのコミュニケーションに重きが置かれるようになり、その延長上で、顧客に対するリサーチ機能をコミュニケーションの一部として内包し、一貫したブランド体験としてデザインする傾向がでてきた。
  • 結果として、そういった企業はユーザーに対する調査はMA上で行ってしまうため、マーケティングリサーチ企業のアンケートシステム(企業から見るとMAの外部システム)の利用機会が減少した。
  • ユーザー調査市場という観点からマーケティングリサーチ企業のとるべき戦略は、自身でMA提供を始めて同じレイヤーで勝負をするか、他社のMAに組み込み可能なアンケートSDKで切り込んでいくか、ブランド体験から分離すべき特別かつ中立なユーザー調査のポジションを確立するか、もしくはMAとは無縁な企業の開拓に勤しむか、などが考えられるだろう。
  • もちろんユーザー調査以外に絞って狙っていくことも可能だが、実態把握の本丸であるユーザー調査を協業できない点は、マーケティングリサーチ企業にとって非常に大きなデメリットであろう。

 

8.オムニチャネル

マーケティングリサーチの文脈におけるオムニチャネルの意義は、理想像を1個ないし少数だけ描くカスタマージャーニー分析がビジネス価値を発揮し続けられるかどうかの勝負である。

  • ECサイトでの購入やネットでの情報検索が盛んになるにつれ、リアルとネットを含めたオムニチャネル戦略が叫ばれるようになった。当然、市場実態の把握や効果検証においてもオムニチャネルを前提とした分析ニーズが高まっている。ただし、オムニチャネルは考慮すべき要素が多く、また入り組んだ消費者行動シナリオを踏むことが多く、定量分析のためのアスキングが難しい。そのため、デプスインタビューによる定性的なカスタマージャーニー分析が有利になっている。
  • しかし、チャネルの複雑さは激化の一途をたどる一方であり、MAによるワン・トゥ・ワンマーケティングがもっと普及すれば、一人一人に対する分析ニーズが高まると思われる。だがその場合、定性調査から導くカスタマージャーニーは役不足になってしまう。
  • 中長期的にはシングルソースでオムニチャネルを捉えるパッシブデータが生まれる可能性は高く、パッシブデータの分析キャパシティ強化も相まってパッシブデータ分析の全盛がやってくると思われる。このとき、ワン・トゥ・ワンマーケティングのために複雑な現実をそのまま捉えるパッシブデータ分析に対して、カスタマージャーニー把握のために現実をシンプルに捨象する定性調査がどこまでビジネス価値を発揮できるかの勝負になると思われる。

 

9.シェアリングエコノミー

マーケティングリサーチの文脈におけるシェアリングエコノミーの意義は、現実をシンプルに捨象する消費者行動モデルがビジネス価値を発揮し続けられるどうかの勝負である。

  • 従来の消費者行動は、限られた店舗からモノを購入するスタイルであったため、そこから想起されるブランド体験はファネルのようにシンプルに設計できた。インターネットが主戦場となり、オムニチャネルの時代となっても、チャネルが分散するだけでファネル的にはシンプルに解釈できた。(※とはいえ、Dual AISASで主張されるように、考えようによってはファネル自体も相当複雑化している)
  • しかしシェアリングエコノミーにおいては、今までだとあり得ないような消費者行動が出現する。たとえば、『保有や購入はしないけど、そのブランドは大好きでよく使用する』、『とりあえず使ってみて、気に入ったら継続、気に入らなかったらやめる』、『売るときのことを考えて、自分が使いたいかではなく、他の人が使いたいかを基準に買う』など、挙げようと思えばキリが無い。従来の消費者行動モデルは、利己的な意思決定とファネル的発想をもとにしていたため、多様で勝手な消費者行動を表現することができない。
  • オムニチャネルと同じ議論ではあるが、カオスな現実をそのまま捉える未知の新技術に対して、現実をシンプルに捨象する消費者行動モデルがどこまでビジネス価値を発揮できるかの勝負が起こるだろう。シェアリングエコノミーがこのまま拡大するとしたら、後者に分が悪いのは言うまでもない。

 

最後に

振り返ってみると、非常に難解に書いてちゃっているので、こういう話を分かりやすく表現して伝わるようにするのは今後の自分の課題かなと思います。

また、書きたいバズワードは他にもあるものの、知識不足で議論のネタ程度にもならなそうなので断念しました。とくに自分の知識不足が顕著だったのがブロックチェーン。たぶん、激的に市場を変えそうな気がするんですが、技術が全然理解できていないので何も書けませんでした。このあたりは、もっと精進が必要です。

さて、この投稿で何を伝えたかったかというと、こういう解釈の議論がお好きな方がいらっしゃったら、ぜひともお声がけくださいということです。たぶん、いつかどこかでいいお仕事を一緒にできるんじゃないかと思います。

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ブログ著者について
那須野 拓実(なすの たくみ)。たなぐら応援大使(福島県棚倉町)。トリプレッソを勝手に応援していた人。元語学屋。時々写真垢とか手芸垢。山とか滝とか紅葉とかが好き。本業はナレッジマネジメントとかデータ分析とかの何でも屋。コロナワクチン接種済み。