一人十郷 - Takumi Nasuno Photography
ビジネス
2020/08/02

ビジネス組織における多様性と持続性について、徒然に考察してみた

娘が2歳になりました。半年間の育休から復職してから1年半が過ぎました。残業が必ずしも少ないとは言えない企業の中で、あの手この手を駆使して実質的に残業無しを貫いて働く中で、ビジネス組織における多様性と持続性について思うところがあったので、極論を比較する形で言語化してみたいと思います。

なお、私自身は多様性(ダイバーシティ)や社会的包摂(ソーシャル・インクルージョン)、イノベーションなどの専門家ではありません。もしかしたらここに書く内容は専門領域としては自明のことかもしれませんし、もしかしたら方向性は類似するものの言語化されにくかったことかもしれませんし、もしかしたら全く違う見解なのかもしれません。あくまで個人の経験と考察から出てきた考えだとご留意ください。

 

夏の育児の図。なお本編とは関係ありません。

 

多様性とイノベーションの狭間にあるロジック

多様性、ないしダイバーシティは、日本における昨今の働き方改革でよく取り上げられる話題であり、「多様性は経営戦略である」,「多様性が企業を強くする」,「多様性がイノベーションを促進する」などの言説はそれこそ至るところで語られているように思います。

抽象論としての多様性は頻出するものの、では具体的に多様性の文脈で何が語られるかと言うと、

  • 女性の従業員比率
  • 女性の管理職比率
  • 女性の平均勤続年数
  • 男性の育休取得率
  • 障がい者雇用率

といった数字が挙げられることが多いというのが個人の体感です。ただし、こういった数字が大きい方が本当に「企業が強くなる」のか、「イノベーションを促進する」のかというと必ずしもその論理が働くわけではないのだろう、というのもまた直感にあります。

 

多様性が業績に寄与する因果のロジックは主に6つあると考えます。

1.組織の顧客への寄り添い能力の向上
⇒異なる知識、異なる経験、異なる視点を持つ従業員が組織内に集まって意見交換することで、組織としての幅を広げ、より広い市場のより多くの顧客に適切に寄り添った対応ができるようになる。

2.組織のイノベーションへの枷の消失
⇒多様な働き方の共存を実現するため、結果として手段の制約が減り、目的志向が強化される構造圧力が働き、飛躍的な業務効率化や事業成長、つまりイノベーションへの枷がなくなる。

3.組織体制の盤石化
⇒100%の有休消化だけでなく、怪我や病気、慶弔休暇、悪阻、産前産後休業、育児休業、介護休業など人生に起きうる様々なイベントによって労働力が流動的になっていても安定して業務維持できるよう、あらゆる組織体制に盤石さを作らざるをえなくさせる構造圧力を働かせることで、経営を安定化させる。

4.従業員の議論能力の向上
⇒従業員によって前提となる認識が異なり、暗黙の了解や『察する』といったことが通じない。そのため、あらゆる考えを明快かつ論理的に言語化する能力や、異なる意見をもとに高度な合意形成を行う能力などを鍛えざるを得ない環境になり、議論に関する能力が大きく成長する。

5.勤労継続による波及効果
⇒ライフイベントの積み重ねで生き方や働き方の変化を乗り越えて、自分事として多様なライフスタイルの視点を身に付けた従業員が増える。
⇒ライフステージの変化があっても勤労を継続しやすい安心感から従業員ロイヤルティが高まり、従業員による組織への長期コミットメントが期待しやすくなる。
⇒従業員ロイヤルティの高さから従業員がおのずから知人友人に企業をオススメすることで、採用全体におけるリファラル採用の割合が高くなり、採用コストが低減される。

6.優秀な人材の有利な雇用
⇒旧態依然とした企業では働けない(働きたくない)優秀な人材を他社に先んじて雇用する採用戦略によって『費用対効果が高い』ないし『事業フェーズに見合った期待値以上の』人材採用計画を実現し、直接的に事業成長をもたらしてもらう。

 

つまり、数字が大きくなった過程で、こういった変化が起きていれば多様性は企業を強くするし、逆にこういった変化が起きていなければそれほど企業は強くならないだろう、というのが私の直感です。本稿ではこういった性質を備えた企業文化を端的に『多様性文化』と呼びたいと思います。

 

では、こういった変化が起きるということは、具体的にどういうことか。いくつかの問いを並べてみます。

1.組織の顧客への寄り添い能力の向上
⇒従業員の異質性は担保されているか。例えば、モーレツ社員ばかりの企業で数字としては女性比率が増えていたとして、モーレツ社員の女性ばかりが増えていて結局は同質性が高かった、などということは起きていないだろうか。

2.組織のイノベーションへの枷の消失
⇒前例踏襲の傾向が強くないだろうか。新しい取り組みは賞賛されるだろうか。極端なマイクロマネジメントに陥っていないだろうか。

3.組織体制の盤石化の強制
⇒1人や2人、明日から突然いなくなっても業務が回るぐらいに情報の透明性や職務の流動性はあるだろうか。

4.従業員の議論能力の向上
⇒社内の議論は活発か。上長や他部署に正直に物申せない雰囲気はないだろうか。合理的な説明なき押し付けが横行していないだろうか。

5.勤労継続による波及効果
結婚や妊娠、出産、介護などをきっかけにした退職が頻発していないだろうか。従業員経由のリファラル採用は一定割合出ているだろうか。

6.優秀な人材の有利な雇用
⇒残業無しや短時間勤務を前提とした社員採用、場合によっては週4や週3勤務の社員の採用実績はあるだろうか。また、採用した正社員がすぐにやめるといったことは頻発してはいないだろうか。

 

これらの問いから示唆されるのは、定量的な数字が大きくなっていくことはあくまで結果論であり、組織に定性的な変化が起きているかどうかが『企業を強くする』多様性の本質なのではないか、という私の考えです。

 

多様性の問いと相反する日本の企業文化

しかし、端的に見ると、これら多様性の問いは典型的な日本の企業文化とは真逆にあるわけです。典型的な日本の企業文化が今までの日本の栄華を作ってきたことを考えれば、これらの多様性が『必ず』,『即座に』企業を強くするかと言うと、そうではないというのが実態でしょう。

多様性のある企業と真逆として語られがちな、よくあるタイプの日本の企業文化について、特徴とメリットをA~Eの5つに分けて棚卸ししてみます。

A.性差別を黙認し、飲みニケーションを奨励し、空気を読む文化を重視する。
⇒先天的要素に紐づく弱者(被差別者)を組織内に作ることで、相対的強者(差別者)の自尊心を満足させ、とりわけ若年者の年功序列に対する不満を軽減する。
⇒空気を読むという不文律な踏み絵によって反対者を村八分にすることで、従業員の盲目的な追従による組織的安定を作り出すだけでなく、従業員の同質性を高めてコミュニケーションコストを抑えられる。

B.企業や上司の命令は絶対。空気を読み、異論を唱えず、指示やマニュアルに忠実に従うことを奨励する。
⇒優秀な上層部による優秀な作戦や戦術がトップダウンに組織全体で忠実に実行されることで、『全体最適だが部分非最適』という『個別部署では反対が出そうな施策』を容易に強制させることができ、全体最適性によって事業を成長させる。

C.新しい取り組みに他社の成功事例を求める。
⇒新しい取り組みの提案コストを無条件に引き上げることで、浅慮近謀になりがちなボトムアップアクションを低コストで防ぎ、トップダウンを強化できる。

D.全員が同じ職場で、同じ時間に働く。
⇒同期コミュニケーション(しかも対面)が基本であり、相手の顔色を伺いながら情報出しを行えるため、事前の計画なしにアドリブなやり取りで済ませることができ、コミュニケーションコストを抑えられる。
⇒論理や数字といった合理性ではなく、対面による場の空気感で統率できる。

E.残業が長ければ長いほど『頑張っている人』,『社に貢献している人』とみなされる。
⇒社員当たりの残業時間が長くなり、新規採用と比較して限界労働時間あたりの追加コストを抑えられる。
⇒行き当たりばったりな労務計画や工数計画でも、残業で乗り切って事なきを得ることができる。

 

具体的に色々と並べましたが、抽象的な議論で言うと、この日本の企業文化の特徴は従業員ロイヤルティの根拠として『男性終身雇用による年功序列』を置いているように直感しました。そのため、本稿ではこういった日本の企業文化を『年功序列文化』と呼びたいと思います。

年功序列文化は、年功だけでも統率できるように合理性を欠くことを許容させる仕組みを持つ一方で、年功序列と表裏一体にあるトップダウンによる弊害を残業や差別で打ち消す構造を持っています。ただし、トップダウンを理論的に下支えする全体最適性について、優秀な策をトップが実際に考案できることは保証されていません。トップの考案する策が適切なものであれば大きく成長する、そうでなければ船ごと沈没する、という構造のように思います。

そのため、年功序列文化における最も重要な問いとして、「トップが全体最適な適策を本当に考案できているか」には強く注目するべきでしょう。もちろんその中身には、多様性文化の強みであるはずの『安定した組織』、『安定した採用と勤続』、そして何より『安定した事業』の確認があるのは言うまでもありません。

コロナ禍のようなゲームチェンジがまた起こらないとも限らない中での判断は非常に難しいですが、こういった要素が満たされているのであれば、人口減が市場縮小や労働力減に繋がる令和の時代でも、年功序列文化を継続することは十分に可能でしょう。

 

年功序列文化は変革するべきか

多様性文化と年功序列文化を比較するとき、多様性文化をべた褒めする一方で年功序列文化を非難するシーンは感情論としてはよくあることです。

日本社会から終身雇用と年功序列が実質的に消滅しつつあり、正社員ならまだしも非正規社員にいたっては今の職場で年を越えられるかも分からない時代です。そんな背景から単純に考えれば、「社の存続に致命的に影響する従業員ロイヤルティを維持するために多様性文化を!」という発想は容易に出てくると思います。

また、激しく変化する昨今のビジネス環境におけるトップダウンは、現場感のない施策を強行してしまうリスクや、方針変更にスピード感がなく事業が市場変化についていけなくなるリスクが高まっています。こういった意味でも、ボトムアップに通ずる多様性文化への移行にはメリットがあるように思います。

しかし、やはり多様性文化への変革は諸刃の剣になりがちです。チェックポイントを3点挙げると、

  1. 従業員が短期的もしくは長期的に離脱することが頻発しても業務が回るよう、業務の体系化や情報の透明性担保は組織として十分にできているだろうか。
  2. 経営層や中間管理職は、論理的に物事を考えて議論を交わすに足る能力を持っているだろうか。部下の言葉に真摯に向き合うことができるだろうか。また、心理的安全性が確保されるのは当然として、部下は論理的な分析や提案を行うに足る能力を持っているだろうか。
  3. 残業代で生活を支える残業依存者は多くないだろうか。評価体系や給与体系は大きな問題なく移行できるだろうか。

などがあります。つまるところ、年功序列文化ではこういった性質が劣化する傾向にあるので、思い切って多様性文化を目指そうにも組織や従業員がついてこれずに企業ごと崩壊するリスクがあります。ある種の博打であるとも言えるでしょう。

良くも悪くも、年功序列文化は様々な組織機能が互いに安定した平衡状態にあります。一夜にして全てが変革されることなど恐らくありえないでしょうから、年功序列文化から多様性文化に移行する場合は移行期に大きな組織矛盾が発生すると思われます。矛盾を抱えつつも組織を変革しきることに組織、そして事業が耐えられるかどうかというのが、多様性文化への移行で絶対に考慮しないといけない点だと感じます。

 

まとめ

さて、今日も徒然に書きました。

年功序列文化を支持する母体となる『安定した組織』,『安定した採用と勤続』,『安定した事業』を現代日本で持つことが非常に厳しくなっている現実を見るに、基本路線としてはやはり多様性文化への移行なのだろうなと思います。

ただし、議論の能力がほとんど身に付かない日本の教育制度や、業務の独自規格を自社の強みにしがちな日本の企業文化を鑑みるに、多様性文化を推し進めるだけの国家レベルの基盤に欠けているのではないかというのが私の最も危惧するところです。

思うに、一部の先行する企業が世界標準の業務規格を採用したうえで議論能力の高い人材を囲って多様性文化への移行に成功するのは自然に起こるとして、残された企業と人材がどうなっていくのかという問いが、国家レベルで最も重要となると思うのです。

近年は『AIに仕事を奪われて雇用がなくなる労働者』という恐怖を煽る宣伝文句がメディアを騒がせているように思いますが、一方で『多様性文化への対応ができずに雇用できなくなる企業』という帰結が綺麗な対として実現する気がしていて、なおさら多様性の重要さをかみしめる夏の夜なのでした。

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ブログ著者について

那須野 拓実(なすの たくみ)。たなぐら応援大使(福島県棚倉町)。トリプレッソを勝手に応援する人。ネイチャーフォト中心の多言語ブログを書いてます。本業はナレッジマネジメントとかデータ分析とかの何でも屋ですが、今は半年間の育児休業中。
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