納得のいくものは1ヶ月程度で完成すると思っていたものの、全く一筋縄では行かない難易度でした。気がついたら半年近く低頻度更新期間が続いてしまっています。流石にこんなつもりではなかったんですけど、ここまで来ると、ケント白石先生の言うことが少し分かった気がします。
さて、何をしていたかというと、地元鶴見にある、とあるひとつの被写体を継続して撮るということにチャレンジしていたんです。ジャンルはもちろん風景写真。同じ被写体の入った風景の写真を撮り続けるわけなのです。
尊敬するフォトグラファー、ケント白石先生は自信のブログで以下のようにおっしゃっています。
実は青い池の写真はこれまでに撮り過ぎると言っては変ですが、それほどたくさん撮っていまして、お蔵入りしている写真が殆どです。画商やクライアントから「・・・な青い池」が欲しいと言われた時に殆ど対応できる様に撮り続けて来ました。結果的にそれが今大きく役立っているのです。しかも僕はその事に5年も前から気がついていました。世界でArtist活動するなら、少なくともある期間、相当な条件をクリア出来るように『一つの被写体を撮り続ける姿勢が大切!』。少なくとも僕はそう考えています。(Kent Shiraishi Photo Studioより引用)
ケント白石先生が写真を通じて提供している価値は、『とにかく綺麗な被写体の風景』ではなく、『被写体に対してとある顧客が見たいと切に願い夢想するワンシーンに限りなく合致する風景』なわけです。
マーケティング的に考えると、普通のフォトグラファーの発想がプロダクトアウト、ケント白石先生の発想がマーケットインを通り越してユーザーインを体現しているということでしょう。
なお、このあたりのマーケティング用語は定義が人によってバラバラなので、自分の中での整理ということで自分の定義をメモしておきます。
①プロダクトアウト:売り手重視の論理。作り手個人が作りたいもの、良いと思うものを提供する。
②マーケットイン:マス市場重視の論理。一般市場で消費者ニーズの大きいものを提供する。
③ユーザーイン:買い手個人重視の論理。一人一人の顧客に対して、彼らが欲しいと思うものを個別に提供する。
きっと写真にお金を出す富豪の方々は、さぞや細かい条件を提示するのでしょう。風景写真は自分が過去に相対して撮った風景しかないですから、細かい条件に対応するには、非常に多くのパターンの写真を撮っておく必要があります。風景写真でのユーザーインは、写真市場の中で最高級のスキルと経験が必要なビジネスだと思われます。
そんなこんなを考えながら始めたわけですが、私が選んだ被写体は、さすがに青い池のような絵的に綺麗なものではないのです。なので満足のいく写真が1ヶ月程度で揃ってひと段落するかと思っていたら、そうでもなかったんです。撮れば撮るほど改善点が見えてきて、より良い構図が思いついて、もっと期待する空模様が出てきて・・・、
そう、撮れば撮るほど、細かい条件が思い浮かんでしまって、もっと撮りたいと思うようになってしまったんですね。被写体に対する細かい条件の想像力が身に付いた、とでも言えましょうか。ケント白石先生は明言していなかったですが、ひとつの被写体を撮り続けることで身につけられるフォトグラファースキルは、
1、本来多様な撮影シーンに対する細かな条件を、具体的に想像できるようになる
2、ともすれば不必要なほどの反復練習により、撮影スタイルの異常なこだわりを育てられる
だと理解するようになりました。
そんなこんなで、一通り揃ったら公開しようと思っていた鶴見のとある被写体の写真群ですが、公開するのはもう少し先になりそうです。ちなみにこのページの一番上の写真は、ただの鶴見川の夕日です。これも結構お気に入りですけど、例の被写体とは関係ないです。例の被写体は、完成したらのお楽しみで!笑