一人十郷 - Takumi Nasuno Photography
ビジネス
2017/12/10
佳境にあるマーケティングリサーチの領分

先日、山口周氏の"世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?"という本を読んだのですが、これ、今年一番の本でした。このブログの大きなテーマの1つでもあるサイエンスとアートの関連性について、以前から持っていた問いに対しても多く答えてくれました。

あまりにも多くの分野にて示唆を受け取ったので、それらは決して1つの記事に書けるものではありません。でも、読み終わって数時間経って、最初にマーケティングリサーチの文脈について書こうと思いました。ということで、筆を執ってみます。

 

関連記事:マーケティングリサーチの文脈で、9個のバズワードの行く末を解釈してみた(2017/06/24)

 

※本投稿は個人の主張であり、特定の団体は関係ありません。

 

 

1. "世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?"

この本を通して気付いた最大の発見は、サイエンスとアートという二項対立に、クラフトという要素を加えるということでした。

クラフトが登場することで、ビジネスにおける意思決定の全てが説明できるようになります。つまるところ、クラフトが現実論、サイエンスとアートが理想論を語るわけですが、サイエンスが事実分析に基づいて再現性を持つのに対し、アートは直感に基づいて再現性を持たない特徴があります。加えてもう一つ気付いたのが、意思決定をうまく機能させるにはサイエンス、クラフト、アートのパワーバランスを整える必要があるという点でした。

 

この本で指摘しているのは、日本のビジネスがサイエンスを重用しすぎる一方で、アートを軽視する傾向にあるという点。サイエンス傾倒のマネジメントでも、差別化ではなくコストとスピードの優位性によって実際に勝てていたのが日本の企業。21世紀より前の話です。

でも今は、この傾向が続いたことで、再現性のあるサイエンスによって日本の市場にはコモディティ化した商品やサービスに溢れてしまい、囚人のジレンマの中で狂ったレードオーシャンの競争が発生しています。この背景にはコンサルティングファームや広告代理店の活躍があるかもしれませんが、その一端を担ってきたのはマーケティングリサーチ企業でしょう。

 

この本ではバランスを取る方法として、第一に企業のトップ自身が美意識を鍛えること、第二に美意識の高い誰かを任命して権限を与えることが挙げられています。と言いつつ、後者についてはその誰か適切な人間であると周りが認識するために、周りの人間も一定水準の美意識を求められる点は留意が必要とのことでした。

では美意識を高める方法には何があるかというと、マインドフルネスやビジュアル・シンキング・ストラテジー(VTS)を挙げています。美意識を高めるために、これらの方法によって自身の体からのシグナルをそのまま認識できるようになる必要があるとのことです。

 

さてそれでは、マーケティングリサーチ企業は、この文脈においてクライアント企業がバランスをとって意思決定をうまく機能させることの手助けが、本当にできるのでしょうか?残念ながら、私の答えは「ほぼ不可能」です。

マーケティングリサーチ企業がやらないといけないことは、つまりは価値の志向性を変えることです。今までは、外部からデータコレクションの段階でサイエンス側のアカウンタビリティを強化する手助けさせできればよかったわけですが、今は内部から意思決定におけるサイエンスとクラフト、アートのバランスをとる手助けを、決して言葉には出さない形で暗に求められているわけです。

思うに、将来有望な一部のリサーチャーが、個人的にバランスをとる能力を身につけることは、比較的容易いことでしょう。でも、サイエンスの申し子とも言うべき既存のマーケティングリサーチ企業は、自らのワークスタイルを変えることはできないでしょう。というのも、これら企業がずっと、サイエンスのアカウンタビリティを強化する負のサイクルだけに貢献し続けてきたわけですから。

おそらく、そんな貴重な人材は、サイエンスの申し子からは離脱してしまって、全く別の組織体にて破壊的イノベーションの実現に組することになるのだと思います。それが既存の異業種なのか、はたまた全くの新興業種になるのかは考えるのが楽しみなところです。

 

2. "JMRAマーケティングリサーチ産業ビジョン"

"なぜ世界のエリートは「美意識」を鍛えるのか?"の本を読んでいる間、中に書かれている主張を読むたびに、日本マーケティングリサーチ協会(JMRA)が出した、とあるドキュメントを思い出していました。

そのドキュメントは、2017年6月2日に公開された"JMRAマーケティングリサーチ産業ビジョン"というもの。急激に変わるこの世界情勢において、業界が生き残るために自身の変革を訴えた文章です。そこで主張されていたのは、マーケティングリサーチに必要な3つの人材として、サイエンス&エンジニアリング人材、アート&インサイト人材、そしてビジネス&戦略人材があるということでした。

業界自身が既にこの3つの要因に気付いていた点は少し感動ものでしたが、それと同時に、ドキュメントについては違和感を感じました。

もちろんマーケティングリサーチ企業が自身を変革するには、サイエンス、クラフト、アートが必要です。そして幾分か投資すれば、そういったスキルを持つ人材を雇うことはできるでしょう。それは比較的簡単です。しかし、本当に必要なのは3要素を集めることではなく、3要素のバランスをとることのはずです。そしてそれは、クライアント企業の中でも、さらにはコンサルティングファームにとっても非常にチャレンジングなものであることが既に明白なのです。

思うに、外部からバランスをとろうとする場合、心酔するかのような未来図をアートの文脈に基づいて情熱的に語り、感嘆の域に達するクラフトによって実現に持っていくような個人の離れ業が必要だと思うのです。とても難しいとは思うのですが、私はこのパターンしか知らないのです。他に可能なビジネスプロセスがあるとしたら、ぜひともお教えいただきたいところです。

 

最後に、もう1つだけ。マーケティンングリサーチ企業にとって最も重要な戦いは、自分たちの領分にできるだけ多くのパッシブデータを取り込むことではなく、自らのスタンスをサイエンスの支援からバランスをとることに変換することです。今のところ危惧しているのは、どこかの会社が盲目なままに、ハリボテビジョンのもとで貴重な人材をコレクションしやしないかというところですかね・・・

 

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